「あ、さん」 玄関先で新八がそう口にしたのが聞こえ、俺は読んでいたジャンプから目を離しちらっと玄関先に目を配る。 お久しぶりです、どーもーここのところ暑いけど、元気してた?はい、まぁなんとか生きてますよ、 そんな2人の会話がどんどんと大きなものになっていく。俺は何事もなかったかのようにまた視線をジャンプへ戻し、彼らがちょうど居間の敷居を跨いだのを肌で感じ取って、「土産はー?」と声を上げた。 新八が小さなため息を、が手に持っていた荷物を目の前のテーブルに置いたのがほぼ同時で、俺は咄嗟に2人を見比べた。 「週一でしか甘いもの食べられない人には酷なものだけど」 甘いもの、そう聞いて俺は膝の上に載っていたジャンプを閉じてが置いた袋を確認する。 俺が見たこともない袋だったが、箱の形からしてケーキかなにかだろう、そう俺は予想した。 「いや、週一ってのはあくまで目安だから。それに俺奇跡的に先週甘いモンなんて口にしてねぇし、つーか新八、早く皿とフォーク持って来いよ」 新八が何か言った気がしたが俺には聞こえていない。なぜなら目の前の箱を開けることに必死だったからだ。箱を開けてみれば俺の予想とは少しだけ外れてしまったがそれがタルトであることは間違いなかった。 数はきちんと4つ分。俺と新八と神楽とそれからの分だろう。 「いやぁ悪いね、ほんっと毎回毎回」 綺麗に並べられた4つのタルトを見ながら、俺はどれを頂こうかと頭を悩ませる。 そこへ新八が2人分の皿をを持ってくる。 そうして手慣れた手つきで向かいに腰を下ろしたと俺へ皿を分ける。 「なんだくわねーのかよ?」そう俺が言うと、新八は「神楽ちゃんが戻ってきたら食べます」と言った。 「へーっ」と言った俺が、 よし、この真ん中にある果物たくさんのってるやつを食べようと決意した時、が神楽ちゃん外に行ったの?と新八に声をかけた。 台所にもどり飲み物の準備をしていた新八は冷蔵庫をあけながら、はい、僕の姉上と一緒に買い物に。と話した。するとは何かを考え込んだような顔つきになり、腕にしていた時計をみやる。 そうして何を思ったのか立ち上がり新八が準備した皿とフォークをもってそのまま台所へ向かった。俺も新八も怪訝な表情にならないよう気を使い、を見つめる。 「私、今日見たいテレビの録画忘れて、このまま帰るからお姉さんと神楽ちゃん帰ってきたらわけてあげてね?」そう言って新八に皿とフォークを手渡した。もちろん気ぃ使いな新八は、「姉上なんて気にしないで下さい、」と慌てて言ったがは首を縦には振るわなかった。 遠くから会話を見守っていた俺もフォークを口にくわえながら、 「テレビならあんだろーがここにも、」と言ってみたが、 「ここじゃ見れない衛星放送なの」 とぴしゃりと言い放たれた。 じゃーしかたねぇなと言うとは振り返り笑顔を一つよこした。 俺は口にくわえていたフォークを置いて、いそいそと開けた蓋を閉じた。 「じゃ、急ぐから帰るね」 「おーまたいつでも来いよー土産つきなら手厚い歓迎すっからな」 「また休みの時にでも来るね」 そう新八に言っているのか俺にも言っているのか、よくわからなかったがは背を向けて今しがた入ってきたはずの玄関へ戻っていく。 俺はソファに座ったまま、の背中を見つめて「気ぃつけて」と声に出した。 その声が聞こえていたのか聞こえていなかったのかさなかではないが、はこちらを振り返ることもなくヒラヒラと手を振った。 に続いて新八が玄関先まで見送って、「本当にすいません、」と申し訳なさげに言っていたがはカラカラ笑って「ケーキよりテレビのが大事なのよ」と言ったのが聞こえた。 そのあとすぐにカラカラと玄関が開いて、そしてまたカラカラと玄関が閉まる。 それを聞き過ごして俺はテーブルの上に置いてあったタルトの箱を冷蔵庫へしまう為、立ち上がった。 「なんだか悪いことしちゃったなぁ」 居間に戻ってきてもそう言い続ける新八を横目に、冷蔵庫を開けて空いたスペースにしまいこむ。 「いーんじゃね?本人がそう言ってんだから。あんま気にするようなことでもねぇだろ」 「でも、」 「あーもーそんなこといちいち気にしてたら生きていけないよ?新ちゃんが生きてるこの世界は混沌としていて、いつ足踏み外してもおかしくないんだから」 「新ちゃんとかやめてくれません?なんか気持ち悪い…」 冷蔵庫を閉め、新八の言葉を適当に流し俺は元のソファへ腰を下ろすと、が来た所為で途中になってしまったジャンプを読み進めた。 が帰ってからほんの10分も経たないうちに神楽とお妙が帰ってきて、俺も新八もいきさつを話すわけでもなく、が来てタルトを置いて行った と短く簡潔に話した。その話を聞いて一番初めに冷蔵庫へ向かったのは言うまでもない、神楽なわけだが、お妙はの事を知らないようで誰です?なんて聞いてきたが、俺はただの知り合い。と素っ気なく答えるだけに終わった。 が言った通り、タルトはその場にいた人間ですべて平らげてしまった。 見たこともない店のものだったが、甘さは控えめで俺としてはもっと甘くてもよかったなぁと考えた。 082008 |