一連の花火が打ちあがり、終わりを迎えたのはその盛大な花火が打ちあがってからすぐの事だった。 お互いに手を握っていたことには触れず、さっきのはすごかっただとか、どれが一番綺麗だったとか、そんな話をしながらゆったりと人の流れに従いながら先ほど歩いていた屋台が連なる歩道を歩く。 不思議だった。 と会ってから手になんて触れたことがなかったのに、今日はじめて自ら率先して触れていたというのにこのの落ちつ具合と、自分の冷静さに俺は感心していた。いや、どちらも触れてはいけないと思っていただけかもしれないが、今の俺にとってはそれが救いでしかなかった。 そうして屋台が途切れた、初めに待ち合わせをしていた神社を通り過ぎるとき見慣れた顔が3つあることに気がついた。初めにはぐれてしまった志村一家と神楽の姿だった。 どこで手にいれたのか分からないが神楽の頭にはお面らしきものがあった。 「あ、銀ちゃんと!」 そうお妙の浴衣の裾を掴みながら指を指す。 「途中からはぐれちゃったわね」 お妙は困った顔をしながらそう言ってもそれに「人が多くて…」と言葉を濁した。 「銀さんも、ふっといなくなるんですもの」 「あーはいすいませんでしたぁ」 言って俺は後頭部をさすって見せた。 「じゃ、さんと銀さん、一緒だったんですか?」 「うん。みんなとはぐれた後偶然に見つけて」 そう言ったに続いて未だ興奮冷めやらぬ神楽のマシンガントークがはじまり、しばらくその場で談笑をしていた。金魚すくいに夢中になっていたと話していたことを思い出し、神楽の手を見てみたが、金魚なんて生き物をぶら下げている様子もなく、おそらく新八あたりに止められたんだろうなと俺はぼんやりと考えた。 そうしてその場で解散となった俺達は各々の帰路に着くことになった。 着替えを志村家で済ませてきている神楽は今日はそのまま新八の家に泊まるそうだ。 久しぶりの一人の夜だった。 「銀さん変なこと考えたらいけませんよ」 そうお妙にクギを刺された俺は「はぁ?」と声をあげるとは隣でカラカラ笑った。 また会いましょう、そう挨拶を交わして5つの背中は別の方向へと向かい歩き出す。 さすがにこの時間になってくると気温も落ち着き風も冷たさを増す。 家で着替えて帰るのかと思っていたが、浴衣を入れてきた袋に着物をたたんで入れていたらしく、その袋だけもらって帰るとは言った。 駅まで送ると言ったが、それは大丈夫だと 彼女は切り返す。 下駄を脱いで言われた通り居間のソファに置かれていた荷物を手渡した時、は思いもよらぬ事を言い出した。 「その浴衣、銀さんにあげるね」 似合ってるし、サイズもちょうどみたいだし。 そう付け加えたが、俺は「え、」と声を漏らすだけに終わる。 「いや、いいよ。返すって」 「返してもらってもまたタンスの奥底に入るだけだし、それに、」 「もう着る人もいないしね」 そうは困ったように笑いながら言った。 その衝撃は、今までに味わったことがないぐらいのものだった。 ひっそりと目を細めた俺は「そう?」とだけ口にして「返して欲しくなったら、返すから」と自分でも意味が分らないことを口走っていた。それでもは「そうするね」と納得したように白い歯を見せた。 淡々とした足取りで階段を下りていくの背中を見送り、その姿が見えなくなったあたりでようやく俺も玄関の戸を閉める。家鍵を閉めて、そうして一つ深いため息を吐いた。 数分だけでも触れていた右手が、ひどく熱かった。 082108 |