笑えない冗談だわ

そうは笑って言ってのけた。

僕がラウンズに昇進する事が決まった時、にそのことを話したのが彼女がこんなことを言うきっかけになったんだと思う。僕は初めが何を思ってそう言ったのか理解できなかったから困ったように笑ってその場を乗り切り、そのまま踵を返しての前を去ろうとした。
「枢木スザク」
けれども「笑えない冗談」と言った割には彼女の声には嫌悪の念だとか、そういった負の類の感情は見えなかった。だから僕は足を止めて背後を振り返った。
「理由は話してくれないの?」
「…理由?」
「あなたが、どうして皇帝陛下直属のナイツ・オブ・ラウンズへ昇進できたか、よ」
話せるものならば全てを話してしまいたい。
あなたの従姉妹であるルルーシュがあのゼロで、それと同時に僕にとっても友達で、けれども僕はその友達を父親である皇帝陛下へ売りつけて、その代償でこの地位を手に入れたと。
小さな声でもいい、この胸の中に残るわだかまりを消化してしまいたかった。
けれどもそんなことできるわけがなく、僕は困ったように笑うだけで、「自分でも、よく分かりません」そう答えるだけに留めた。これ以上、の介入を受けると強く持たせようと必死だった僕の心が悲鳴を上げそうだった。
「よく分からないのに、呑んだのね」
「…僕には誰にも譲れない夢と目的が、ありますから」
「その為には手段を選ばない、と?」
一瞬だが、僕の瞳が細くなった。
一番、言われたくないことを言われてしまったからだ。
「…そう、ですね」
次に瞳を細めたのはだった。
「ここでは手段を選んでなんかいられないから」
口にすればするほど、自分で自分の首を絞めている気がしてならない。
あぁ、胸が痛い。心が悲鳴を上げる。
やめてくれ。これ以上僕に構わないで欲しい。強くあろうとした、脆く柔らかい部分がむき出しに晒される。僕にとってという人間はこういう残酷なことを平気でやってのける人種なのだ。
力なくその場に頭を垂れ、俯いた僕の耳にはのコツコツという足音が、だんだんとその距離を縮めてきているのが分かるだけだ。
「枢木スザク、」
そう、名前を呼ばれ、ふいに顔を上げた時に、確かに頬を伝う何かがあった。
の瞳が少しだけ大きく見開かれたのは、僕が頬に伝う何かの正体に気がついた、全くほとんど同時だった。
「…本当に、笑えない冗談よ」
が親指の腹で伝う涙を拭って、僕は笑えないといわれたけれど、いつもの調子で笑ってしまった。








ブラックアウト


(何も見えない)