「久しぶりだねぇ晋助」
俺と同じ隻眼の女は腕を組みながら片方の瞳で俺を射抜いた。
久しぶり そう言われて俺の唇は自然に釣りあがり歪な笑みを作った。
「んだぁ、お前。死んだんじゃなかったのか」
俺とは逆の瞳を黒い眼帯で隠している。生きている瞳は不思議な濃紺の輝きを放ち、しかし驚いたかのように少しだけ見開かれた。
「それとも化けて出てきたのか?」
くつくつと肩を震わせ笑ってやる。
すると女は、は濃紺の瞳を一度閉じると、ははっと乾いた声を漏らし組んでいた腕を解いた。
「そーだよ。アンタが憎くて憎くてたまならいから呪いにきてやったのさ」
「…へぇ、そいつぁ怖ぇな」



思い出せないことがある。
あの眼帯の下にあるはずのもうひとつの死んだ瞳のことだ。
眼帯が着く前はいったいどんな顔をしていたのか思い出せない。どうしてが片目を失ったのかも分からない。それからどうして死んだと思っていた女が俺の目の前に現れたのかも、分からない。
呪いにきたと言った。ならやりそうだ。そう納得してしまう。自らに巻いた白い包帯に隠れているもう1つの瞳にぎゅっと力を入れる。仲間と引き換えに失ったこの瞳。あいつは、いったい何と引き換えに1つの目玉を失ったのだろうか。


今となってはどうでもいいことだ。


そう心の中で呟いた時、はその白い足を着物の裾から覗かせてゆっくりと一歩を踏み出す。
身じろぐわけでもなく俺はただただ彼女を片方しかない瞳で見つめていた。



「アンタを呪う前に、」
こんなに小さいやつだったか。
俺の肩ほどまでの身長しかないは生きている瞳を一度伏せ、そうしてまた生き返らせる。
「一つだけ本当の事を教えてあげようと思って」
俺は片方の眉毛を跳ね上げた。
「…へぇ?」
ゆっくりと彼女の白い腕が伸びてきて、そっと隠された瞳を、ゆっくりとその指先がなぞる。
特に抵抗をするわけでもなく、がしたいようにさせていれば細い指は数回潰れた瞳の上を往復する。
感覚は無いに等しい。けれども彼女の指が冷たいことは微かながらに感じ取れた。
こいつは本当は死んでいるんじゃないだろうか。
そう思えたのも感じ取った微かな体温の所為だ。
往来するの腕を捕まえて、こんなに細かったのか、とまた昔の事を思い出そうと頭が勝手に動き出す。
けれども思い出せるわけでもなく、感覚の無い瞳から微かに感じ取った事がやはり事実なんだということしか、俺には分からなかった。
「そいつぁ、どんなことなんだ?」
掴んだ腕に力を込める。
自分の体温が生きている人間のそれと全く変わらないからなのか、それとも本当にが化けて出てきているからこんなに冷たく感じるのかは、分からない。けれどもこうして腕を捕まえることができて実体として俺の体が認識しているのだから、本当に死んで化けてでてきているわけではなさそうだ。
どんなことだ?
そう聞いた俺に不適に笑みを零しながら、は背伸びをするように、そっとたった一つ、彼女の中での真実をその濃紺の生きている瞳をきちんと開いて、そっと俺に耳打ちをした。









(にくみたいほど



あなたがすきよ)



092908